日本では毎年約60万人、80歳までに約3人に1人が発症するといわれる帯状疱疹。ご自身や親などの周りの方でも「罹って死ぬほど痛い思いをした」といった経験をした、話を聞いたという方も多いのではないでしょうか。
今回はそんな帯状疱疹についてご紹介します。
帯状疱疹の原因
帯状疱疹は、神経に沿って帯状に少し盛り上がった皮疹(丘疹)や水疱(すいほう=水ぶくれ)ができる病気です。原因は、水痘すなわち“水ぼうそう”としてよく知られる病気の原因ウイルス[水痘・帯状疱疹ウイルス]による感染症です。
水ぼうそうは、赤い3~5㎜ぐらいの丘疹や水疱が38℃前後の発熱を伴って全身に出る疾患です。通常は、子供に発症し、軽症で終生免疫(一度の感染で生涯、その感染症にはかからない)を得ることが多いですが、水ぼうそうが治った後も、このウイルスが体内(神経の根元にある神経節というところ)に潜伏していて、暴れるチャンスをジーっとうかがっています。
帯状疱疹が発症するリスクは、病気(リウマチ、肺気腫や喘息などの慢性肺閉塞性疾患、心臓病、糖尿病)、エイズやがんなどの免疫抑制状態、加齢、外傷や疲労・ストレス、帯状疱疹が家族にいると言ったものがあげられます[1]。これらの多くは免疫力を低下させる可能性があり、潜んでいたウイルスが待ちに待ったと言わんばかりに活動を始め一気に活性化、増殖することで、帯状疱疹を発症します。
日本人では15歳以上の概ね9割以上が、水痘・帯状疱疹ウイルスに対する抗体を持っており[2]、つまり抗体を持っているということは、ウイルスが体内に入り感染したことがあると言うことです。したがって、だれでも帯状疱疹を発症する可能性があります。
ちなみに水ぼうそうにかからないで成人した人は、ウイルスが体内に潜伏しておらず免疫も持っていませんので、はじめて感染(初感染)することになり、成人でも帯状疱疹ではなく全身に発疹が出る水ぼうそうになります。成人では子供と比べ重症になることがあり、髄膜炎や脳炎などの合併症の頻度も高くなり、要注意です。
帯状疱疹の症状
神経の根元で目覚めたウイルスは、根元から末梢の神経に広がり、その神経が支配する皮膚に向かいます。発症初期では、皮膚には何ら変化が無く神経に沿ってピリピリ、チクチクといった神経痛のような痛みが出現しますが、痒みを訴える人もいます。皮膚に到達すると神経に沿って帯状の赤い水疱が出てきます。同時に38℃ぐらいの発熱がでることもまれではありません。その帯状の水疱は全身どこからでも出ますが、その神経領域の皮膚以外には通常出ません。
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下図の左側の身体でピンク色の部分、12対ある胸髄神経節の領域である体幹に多くみられ、顔面・頭部では三叉神経、第一枝領域も好発部位です(右側の頭頸部の図)。
つまり、体幹では脇の下から胸部、背中から腹部にかけ、そして顔面は額からまぶた・鼻にかけて出現します。いずれも神経に沿って左右のどちらか一方に出現します。
皮膚症状が出る頃には、神経がさらに過敏な状態になり、衣服が擦れたり風が吹くだけでも痛みを感じるようになり、場合によっては眠れないほどの強い痛みとなり日常生活に大きな支障をきたします。
また、ありふれた疾患といって侮るなかれ、発症部位によっては重い合併症が生じる場合があります。たとえば、
・目の周辺:角膜炎や結膜炎などがみられることがあり、視力低下や失明に至ることも。
・顔、耳の周辺:顔の表情を作る神経が攻撃され顔面神経麻痺を起こし、顔面神経だけでなくその周囲の脳神経にまで及ぶと、めまいや難聴の症状が出ることも。これらはラムゼイ・ハント症候群と呼ばれます。
帯状疱疹の経過
通常、2週間前後で痂疲(かさぶた)ができ、3週間後には痂疲がとれて自然に治癒します。痂疲が出る頃には、ウイルスを排出しなくなり病変部を触れても他人に感染しなくなります。それまでは、免疫のない人には感染する可能性はあります(多くの人はすでに免疫をもっていますのでうつる心配はありません)。一方、水痘(水ぼうそう)は感染力が強く、空気感染をするので、水疱が痂疲化するまで空気感染予防策が求められます。
帯状疱疹はこれで終わりです。免疫不全が無い限りまず再発することはありませんし、痛みも皮疹の治癒と共に消失します。
しかし、皮膚症状が治まった後も「ビリビリ、チクチク」と言った何とも表現ができない、けれど気になる悩ましい痛みが持続することがあり、これが3か月以上続くことを帯状疱疹後神経痛(PHN)と言います(発生率約3%)。この痛みは月単位で徐々に軽くなり感じなくなることが多いですが、場合によっては年余におよびます。時に灼熱間や激しい痛みで寝られないような方もおられます。
病態としては、ウイルスによる神経への直接攻撃により、炎症がおこり神経損傷が残って痛みが持続するケースのほか、帯状疱疹罹患時の強い痛みを「痛みの記憶」として脳が強く記憶してしまい、生理的な「痛み」として復元されるケースもあるようです。この痛みにより日常生活に支障をきたし、手や足の帯状疱疹では疼痛が続いて手足を動かさないため筋肉が衰えたり、長期の痛みでうつ状態になって生活の質=QOLが低下する方もいらっしゃいます。
とくに高齢者や免疫不全の方に多いようですので、後述するワクチン接種や早期発見・早期治療が勧められます。
帯状疱疹の治療[4]
帯状疱疹の治療は、原因となるウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル)の服用、重症な場合はアシクロビルあるいはビダラビンの注射が行われます。痛みに対しては痛み止め(アセトアミノフェン、リン酸コデイン等)を使用します。
ウイルスの増殖は皮膚症状が出てから72時間(3日)でピークに達すると言われていますが、前述した合併症を起こさないためにも、ピークになる前、極力早期に治療を開始し、ウイルスの増殖を抑えることが肝要です。良く分からないピリピリ、チリチリといった痛みが出現し、その箇所に皮膚症状が出現したらすぐに受診することをお勧めします。尚、診療科は皮膚科、ないし内科でもOKです。
合わせて、痛みに対する治療も重要です[3]。ウイルスと戦うには自身の免疫力を高めることも重要ですが、強い痛みのためQOLが低下してしまうと、それだけ免疫力も低下し、回復が遅れてしまうことになり兼ねません。また、帯状疱疹後神経痛になると、長期間にわたり痛みに対する治療が必要となります。神経因性の疼痛のため通常の痛み止めが効きにくく、アミトリプチリン(抗うつ薬)やガバペンチン、プレガバリンを使います。
強い痛みや難治性の痛みの治療に当たっては痛みの専門、ペインクリニック=『痛み(Pain)を伴う疾患の診断・治療(Clinic)を専門に行う診療科』も一つの選択肢となり、当院では麻酔科の中山院長が対応しています。
帯状疱疹の予防
帯状疱疹は免疫力が低下することによって発症するため、まずはすべての病気に共通することですが、体調を整え生活習慣病を予防・治療し、免疫力を維持することです。つまり食事や睡眠をしっかりととり、適度な運動をし、好きなことに没頭したりリラックスした時間を持つなどしてストレスを軽減させることが大切です。
また帯状疱疹には予防ワクチンがあり、50歳以上の方であればどなたでも任意接種可能です。他のワクチンと同様、完全に防ぐものではありませんが、当院が使用しているワクチンでは以下程度の予防効果があるといわれています。
・発症が50%強減少
・帯状疱疹後神経痛や重症化が60~70%減少
接種ができない人、あるいは、注意を必要とする人もいますので、接種にあたっては医師とご相談ください。
著:事務部T
1)Marra F et al. Risk Factors for Herpes Zoster Infection: A Meta-Analysis. Open Forum Infect Dis 2020;7:ofaa005. doi: 10.1093/ofid/ofaa005. eCollection 2020 Jan. (2022年12月25日閲覧)
2)多屋 馨子 他: 病原微生物検出情報(IASR). 39(8), 133-135, 2018(水痘抗体保有状況:2014~2017年度感染症流行予測調査事業より)
3)日本ペインクリニック学会・編:神経障害性疼痛 薬物療法ガイドライン 改訂第 2 版、2016. https://minds.jcqhc.or.jp/ (2022年12月25日閲覧)
4)日本皮膚科学会・編:ヘルペスと帯状疱疹. 皮膚科Q&A、https://www.dermatol.or.jp/ (2022年12月25日閲覧)